九州大学大学院医学研究院神経内科学教室

ACTIVITY REPORT活動報告

炎症性脱髄性疾患症例に対する血清および髄液抗neurofascin抗体、
抗contactin抗体測定の有用性の検討

神経細胞の突起(軸索)の周囲は髄鞘と呼ばれる物質で覆われています。髄鞘と髄鞘の間にはランビエ絞輪と呼ばれるくびれがあります。髄鞘が絶縁体として働 くことで、神経は電気信号(神経伝導)を効率よく伝えることができます。髄鞘は、中枢神経(脳、脊髄、視神経)ではオリゴデンドロサイトという細胞が、末梢神経(脊髄から出た後の手足に伸びる神経線維)ではシュワン細胞が形成しています。

この髄鞘が炎症によって剥がされる病気を炎症性脱髄性疾患といい、髄鞘成分に対するアレルギー反応(自己免疫反応)によって病気が起こると推測されていますが、不明な点が多いのが現状です。

最近の研究によりランビエ絞輪部周辺に存在するneurofascinおよびcontactinという膜蛋白質に対する自己抗体が炎症性脱髄性疾患に関 連していることがわかってきました。そこで私たちは、炎症性脱髄性疾患の患者さんの血液および髄液でneurofascin、contactinに対する抗体を測定することにより、その検査の有用性を確立していきたいと考えています。この研究により、炎症性脱髄性疾患と抗neurofascin抗体、抗contactin抗体の関連が明らかになれば、当該患者さんに対するより適切な治療を提供できるとともに、新たな治療 法・治療薬の開発に役立つと考えています。更に、私たちは新たな自己抗体を見つける研究も続けて行きます。

※抗体とは、特定の異物にある抗原(目印)に特異的に結合して、その異物を生体内から除去する分子です。抗体は免疫グロブリンというタンパク質です。異物が体内に入るとその異物にある抗原と特異的に結合する抗体を作り、異物を排除するように働きます。私たちの身体はどんな異物が侵入しても、ぴったり合う抗体を作ることができます。一方で、ヒトの体は誤って「自分の身体の組織を攻撃してしまう抗体」を作製してしまうことがあります。これを自己抗体といい、これにより引き起こされる疾患を総称して「自己免疫疾患」と呼びます。

対象

この研究では、炎症性脱髄性疾患(慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、ギラン・バレー症候群、多発性硬化症、視神経炎、中枢末梢連合脱髄症、その他の炎症性脱髄性疾患)のため、
平成7年1月1日~平成25年6月11日まで (後ろ向き研究)
平成25年6月11日~令和8年1月31日 (前向き研究)
の期間に全国の神経内科医、小児神経専門医を受診した患者さんが対象となります。また、「難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)患者に対するリツキシマブの有効性及び安全性を検討する第II相治験(RECIPE試験)」に参加した方や対照群として健常者や髄液検査が正常であった他疾患の方も対象となります。目標人数について慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーは530例(前向き研究:450例、後ろ向き研究:80例)、その他の疾患は各100例(前向き研究:60例、後ろ向き研究:40例)の患者さんを対象とする予定です。対象者となることを希望されない方は、下記連絡先までご連絡下さい。

研究内容

対照者、各症例の血清、血液浄化療法で除去された血液成分、髄液を使って、免疫学的手法で、抗neurofascin抗体, 抗contactin抗体の量と機能を測定し、カルテに記載されている臨床情報と併せて分析を行います。

患者さんが受診した施設に血清、血液浄化療法で除去された血液成分、髄液が残っている場合はそれを利用させて頂きますので、患者さんに日常診療以外の余分な負担が生じることはありません。

血清、血液浄化療法で除去された血液成分、髄液がない場合は、患者さんに研究の概要を説明し同意を得た後に、臨床情報の提供を受けるとともに約10mlの採血を行います。髄液は、他の目的で腰椎穿刺を施行する場合に、2ml追加で採取させて頂きます。

また、同抗体が陽性であった患者さんについては可能な限り定期的(およそ1回/3か月)に採血と臨床情報の収集を行い、抗体価の推移と病勢に相関があるか確認させて頂きます。また、その他の理由で髄液検査を施行する際には2ml追加で採取し抗neurofascin抗体、抗contactin抗体を測定させて頂きます。

更に詳細な研究計画及び研究の方法に関する資料を入手されたい場合は、下記連絡先まで御連絡ください。

連絡先:〒812-8582
福岡市東区馬出3-1-1
電話:092-642-5340 神経内科学医局 緒方 英紀
E-mail:ogata.hidenori.565@m.kyushu-u.ac.jp

個人情報の管理について

個人情報漏洩を防ぐため、九州大学大学院医学研究院神経内科学分野においては、個人を特定できる情報を削除し、データの数字化、データファイルの暗号化などの厳格な対策を取り、第三者が個人情報を閲覧することができないようにしております。また、本研究の実施過程及びその結果の公表(学会や論文等)の際には、患者さんを特定できる情報は一切含まれません。また、この研究の成果を発表したり、それを元に特許等の申請をしたりする場合にも、あなたが特定できる情報を使用することはありません。

御本人さんから個人情報の開示を求められた場合は、保有する個人情報のうちその本人に関するものについては開示させて頂きます。

この研究において得られたあなたの血液、髄液、臨床情報は原則としてこの研究のために使用し、研究終了後は、九州大学大学院医学研究院神経内科学分野において同分野教授磯部紀子の責任の下、通常試料は5年間、臨床情報は10年間保存した後、研究用の番号等を消去し廃棄します。しかし、この研究で得られたあなたの血液、髄液や 測定結果、カルテの情報等は、将来計画・実施される別の医学研究にとっても大変貴重なものとなる可能性があります。そこで、可能であれば前述の試料、データを保存し、将来新たに計画・実施される医学研究にも使用させていただきたいと考えております。これを「データの二次利用」といいます。なお、データの二次利用を行う場合には、改めてその研究計画を倫理審査委員会において審査し、承認された後に行います。二次利用に同意されない場合は、下記連絡先までご連絡ください。

医学上の貢献

この研究により、炎症性脱髄性疾患と抗neurofascin抗体、抗contactin抗体の関係が明らかになれば、将来、あなたの病気のさらなる治療法、治療薬の開発に役立つと考えています。また抗neurofascin抗体、抗contactin抗体が陽性の場合は、より適切な治療方針を提供できる可能性があります。

研究期間

研究を行う期間は承認日より令和8年1月31日までです。

研究機関

研究責任者:
医学研究院 臨床医学部門神経内科学分野 准教授 山﨑 亮
研究分担者:
九州大学病院 脳神経内科 助教 緒方 英紀
共同研究者:
  • ①国際医療福祉大学福岡薬学部薬学科 教授
  • ②福岡中央病院脳神経センター長 吉良 潤一
  • ③埼玉医科大学総合医療センター神経内科 教授
  • ④防衛医科大学校内科学講座 神経・抗加齢血管内科 海田 賢一
  • ⑤順天堂大学医学部附属病院順天堂医院 脳神経内科 講師 横山 和正
  • ⑥名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経病態制御学 神経内科学 教授 勝野 雅央
  • ⑦名古屋大学医学部附属病院 先端医療開発部 特任准教授 飯島 正博

連絡先:〒812-8582
福岡市東区馬出3-1-1
電話:092-642-5340 神経内科学医局 緒方 英紀
E-mail:ogata.hidenori.565@m.kyushu-u.ac.jp

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